
今回は実際に鉄媒染によるブナ天板の塗装行程を紹介します。(鉄媒染の仕組みの説明は前回の記事を参照してください。)
まずは鉄媒染に使う溶液作りから…最初に用意するものが上の写真の”お酢”と”スチールウール”です。酢といっても、ホワイトビネガーというトウモロコシから作られる濃度の高いもので写真のHEINZ社の物が仕上がりが良いらしいです。スチールウールはBon Starの#000極細です。細かいほど表面積が大きくなるので反応しやすいです。まずガラス瓶にこの二つを入れて反応させます。
※ このお酢とスチールウールでかなり大量の鉄媒染溶液が作れます。5lは容量多すぎる場合は割高ですが小さい容量のもあります。刷毛やウエスもあると便利です。ウエスは布切れがあればなんでも良いんですが、いろいろ使えるのでたくさんあって損はないです。

ぶくぶくと泡をたてながらスチールウールが酢に溶けていきます。一週間ほど置くと…

真っ黒です。これを漏斗とフィルターで濾過して不純物を取り除いたら鉄媒染液 – 鉄漿水(かねみず)の完成です。
こういう漏斗で濾さないとスチールウールのくずがいっぱいになってしまいます。フィルターはコーヒーフィルターでもキッチンペーパーでも大丈夫です。

まず下塗りはお茶のタンニンです。この段階では濡れ色になるくらいで全く変化はありません。これが乾いたらいよいよ先ほど作った鉄媒染液を刷毛でぬっていきます。本当にあっという間に色が変わっていくのでとても不思議でした。なんだか家具制作というより科学実験みたいです…。鉄媒染以外にも”すず”、”アルミ”、”銅”など使う金属、タンニンにもお茶やコーヒー紅茶など組合わせで様々な色が出るようなので時間があればまたじっくりと試してみたいですね。(ちなみに大きなカウンターでやる前に同じ木材片で試し塗りして色は確認しておいた方が良いです。やり直しは効きません。ちなみにコーヒーでやるとちょっと紫ががった色になりました。)
鉄媒染液を塗って反応した板の色が下の写真です。

これはまだ表面が濡れていてかなりぎらついていますが、2-3日ほどして色味が落着いてきて最終的に”bis tris(ビストリス)”に納入したものになります。最後に表面の保護用にオイル塗装をして完成したのが下の写真です。
仕上げに使用したオイルはこちらオスモ。用途がカウンターで作業負荷が高いのでより強度の高いフローリング用を使用しています。

色が落ち着いてきたら最後にオイル塗装で仕上げ
予想以上に良い顔になりました!客席の自然なブナ材のテーブルとのコントラストで素敵な雰囲気になっています。店舗のコンセプトでもある”舞台”としてシェフの料理を楽しんでいただけるカウンターになっていけばよいと思います。”bis tris(ビストリス)”のテーブルとカウンターは材料調達から塗装までを業者に頼らず自力で行い試行錯誤の中で完成しました。見た目はとてもシンプルですがクオリティは最高です。食事に行かれた際は是非シェフの故郷のブナの息吹を感じていただきたいです。
※約5年後の姿を撮影した記事があります。(2020/06/28)
経年変化

こちらは客席のオイル塗装をしたブナのテーブルです。どちらも全く同じブナ材なんですが、仕上げだけで全く違うものになるのが面白いところです。
wacca architects 一級建築士事務所
坊垣祐司
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