Tizio by Richard Sapper
仕事をするデスクには必ずあると思われる照明器具、デスクスタンドライト。
独断と偏見に満ちていると思いますが、私も使っているこちらのスタンドライトがそれの完成形ではと勝手に思ってます。
Richard Sapper(リチャード サッパー)
こちらはイタリアの照明器具のメーカーArtemide(アルテミデ)のTizio(ティチオ)というデスクスタンドです。デザイナーはRichard sapper(リチャードサッパー)という方です。IBMのノートパソコンのデザインをした人でもありますが、こちらのThinkPad赤ポチを触ってた人もたくさんいらっしゃるかと。
そうやって見ると黒と赤のこのバランスはよく似てます。
デスクスタンドの完成形
少し話がそれましたが、このTizioというスタンドライトは約50年前の1972年に発表されているものなんですが、この時点でデスクスタンドは完成しちゃってたんじゃないかと思うわけです。その後ももちろんいろんなデスクスタンドが出てるとは思うのですが、こちらの完成度は最強だと勝手に思ってます。
初めてこちらを知ったのはイタリアでデザインを学んでいるときに照明のリサーチをした時です。話がまたそれちゃいますが照明のリサーチといっても、照明器具をリサーチするわけではなく、”人がどのように闇を照らしてきたのか”という行為から考えます。それは焚火の炎から始まりそれを松明として持ち歩けるようにしたり、、といったような感じで、ただ照明器具のリサーチをするわけでは無く”照らす”という行為のリサーチを行います。これが中々面白い考察のやり方で最初からアウトプットの物を決めないというところがあって、つまりリサーチの結果、最終的に闇を照らす物、目的にあったプロダクトに落とし込むのであって、最初から照明器具を作るという枠では考えないことによって発想の幅を狭めないというやり方です。
とまぁ、こちらのイタリアデザインで学んだリサーチについてはまた別途記すとして、そういったことをしながらいろいろな照明を見てきた中で、これほどデスクの上を照らすのに完成度の高いスタンドライトが50年も前にできていたことに驚いたことを思い出します。
本質的な美しさ
外観はとてもシンプルで無駄がなく美しくまとまっています。一見すると何がすごいのかわからないのですが、この一見すると何がすごいのかわからない – 派手な装飾やインパクトの強い物では無い。こういうデザインが私はとても好きです。
この照明がここまでシンプルで美しいのは、ほとんどのデスクスタンドに存在する2つの物が無いからです。いかに要素を減らしシンプルに研ぎ澄ますのかという行為は、完成形を見た時にはそれに気づかせない。なんだか分からないけど美しい、というふうになります。デザインが主張しない、目立たなく機能としての本質的な美しさが際立ちます。
で、何が無いのか。一つはアームを決まった位置に固定するためのスプリング。もう一つはスタンドベースから照明までの配線コードです。
どうでしょうか、その他のスタンドライトは大体ついてますよね。もしくはアームの中に隠されているのでアームが太いはずです。このデスクスタンドには本当に二つともが”付いて無い”のです。
スプリングについては、2つのカウンターウェイトがヤジロベーのように働き、あらゆる位置でアームを固定することが可能です。コードについては低電圧でアーム自身を通しているという驚きの構造をしています。
この工夫により、必要なはずの物を完全に消すことに成功したこちらのスタンドライトは研ぎ澄まされた美しいフォルムを獲得しています。
照らすという行為の中で、デスクスタンドに必要なのは全体を照らすことではなく、必要なところを的確に照らすという機能です。このデスクスタンドに必要な機能を完全に満たしながらも他のデスクスタンドには必要だったスプリングを無くし、またコードを取り去ることでより自由な動きを獲得しています。プロダクトとしてただ形を追い求めるのではなく徹底的に必要な機能に絞り、それを満たすことを他の器具とは違うアプローチで実現した名作なのかなと思います。今はLEDバージョンもあります。
たまにこういう名作について考えてみると、物を考える上で大事なことを再考させられます。ので、たまに身近にある名作について考察して行こうかなと思いました。
本国(イタリア・アルテミデ)サイトhttps://www.artemide.com/it/subfamily/18869/tizio
wacca architects 一級建築士事務所
坊垣祐司