美しいと感じる空間は何が違うのか
昨今、Webメディアで検索すると美しい建築やインテリアの事例の写真を山ほど見つけることができます。実際に家づくりを考えたり、お店の出店を考えている方々はまず自分の好みの事例を検索してストックしたりする方が多いと思います。
しかし、どうしてその事例が気に入ったのか言葉にできないことも多いのではないのでしょうか。
空間の美しさや心地よさは、多くの要素が組み合わさって生まれるものです。しかし、一般のお客様にはあまり意識されない重要な要素があります。それが「納まり」や「ディテール」と言われるものです。これを疎かにすると美しい空間はできません。
納まりとディテール
「納まり」とは、建築やインテリアの各部材がどのように納まるか、すなわち、どのように接合されるかを指します。これは、壁と床、天井と壁、窓枠と壁などの境界部分で必ず検討が必要です。
「ディテール」とは日本語にすると詳細、つまり境界部分を含むあらゆる細部、各々の素材がどのようにぶつかるか、手すりの断面や家具の天板小口や壁の角などあらゆる部分を細かく設計し、仕上げを決定することを指します。
これらは、空間の全体的な印象に大きな影響を与えます。適切に設計された納まりと細部にまでこだわったディテールは空間を美しくまとめるために慎重に検討する必要がありますし、この納まりとディテールは設計者のデザインが色濃く反映されます。
納まりとディテールの重要性
なぜ納まりとディテールがこれほど重要なのか。それは、空間の質を高め一貫性と統一感を生むからです。どんなに素晴らしいデザインの家具や高価な素材を選んでも、納まりが不適切であったりディテールが粗雑であったりすると、美しいものも美しく見えません。逆に、細部まで丁寧に設計された空間は無意識のうちに心地よさを感じさせ魅力的に映ります。
これが一般の方が”なんだか分からないけど美しく感じる”の正体の一つだと思っています。
例えば
この一枚の写真を見てみてください。一見普通に見えますが、実は難しい納まりです。実際の木材には厚みがあって、通常通りに施工すると木の厚み分が側面に見えてきます。では壁の方の厚みを見せるようにすれば良いかと言えばそれはそれで野暮ったくなります。
これは壁面と天井の木材の接合部分に工夫をして、どちらの厚みも見せないようにしている納まりです。(木が印刷されてるシートを貼れば簡単だよねっ、というのはまた別のお話)
どうでしょうか、これがそのまま厚みが見えるように取付けてあるのとでは印象は大きく変わります。
これはほんの一例ですが、こういった細かな納まりとディテールへの配慮の集積が、空間全体の質を大きく向上させます。
この納まりとディテールの考え方は設計者さんによって千差万別だったりするので、似たような素材や空間構成でも全く別の空間になると言っても過言ではありません。
見えない部分でのこだわりの積み重ね
多くのお客様は、納まりやディテールといった細部にまで意識を向けることは少ないかもしれません。しかし、実際にはこれらの要素の積み重ねが空間の美しさや心地よさに大きく影響しています。
「一見普通に見えますが」と言いましたが、この一見普通に見えるというのがポイントだと思っています。普通に見えるというのは違和感を感じないということで気になることが少ないということです。それは、その空間での行為の邪魔をしないということでもあります。そんな見えない部分にこだわり、これみよがしでないデザインこそを目指したいと考えています。
また、納まりの良さは、建物の耐久性やメンテナンスのしやすさにもつながります。細部にまでこだわった設計は、長い年月を経ても変わらない美しさを保つことにもつながります。
今回は美しいと感じる空間では100%考慮されている要素、”納まり”と”ディテール”の話でした。
(蛇足ですが、写真が綺麗なんだけど実際行ってみるとなんか違うなと思ったらレタッチでディテールを修正したりなんかして…というのもあったりなかったり。)
これらの作業は設計業務の後半にかけて人知れず地道にやっていて、時間もかかるのですが一般にはあまり知られてません。おそらく。
気づいてもらえるとちょっと嬉しかったりもしますので、そんな視点で一度ご自身の好きな空間を是非じっくり観てみてください。
wacca architects 一級建築士事務所
坊垣祐司